神も仏もティータイム。『首折り男のための協奏曲』伊坂幸太郎|書評

小説・エッセイ
伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』

「あぁ、またうまくいかないなぁ。」

齢22歳にしてぼくが気づいたのは、何事も思いどおりにいくとはかぎらないこと。想像するように事は進まないし、願いがすべて現実になることはない。

けれど時は刻まれる。夜が明け、陽が出る。はるか遠くにあるはずの太陽なのに、どんよりとした心をくっきりと暗い影に映す。あぁお腹もすく。ご飯を食べる。胃が膨れる。トイレに行きたくなる。また時は進む。

物事は思ったとおりに進まず、過ぎゆく時間も歩調を合わせてはくれません

思いどおりにならないとき、神も仏もきっとよそ見をしているのでしょう。実際どうしているのか、人間界からは見えないのですが。

作中の言葉を借りるならそれはもう、「神も仏もいやしない。」と嘆きたい事態です。

 

『首折り男のための協奏曲』伊坂幸太郎

伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』

伊坂幸太郎さんの『首折り男のための協奏曲』。

じっくりと読んだのは2回目のため、物語の流れを俯瞰しながら移りゆく展開と歩調を合わせて楽しめました

伊坂幸太郎の神髄、ここにあり。”と紹介されるのもうなずける、構成の巧みさが光る1冊です。

タイトル首折り男のための協奏曲
著者伊坂幸太郎
出版新潮社
初版2016年12月1日
定価737円(税込)
著書情報

以下のあらすじは、文庫版のカバーより引用。

被害者は一瞬で首を捻られ、殺された。殺し屋の名前は、首折り男。テレビ番組の報道を見て、隣人の“彼”が犯人ではないか、と疑う老夫婦。いじめに遭う中学生は“彼”に助けられ、感じが欠席した合コンの席では首折り殺人が話題に上る。一方で、泥棒・黒澤は恋路の調査に盗みの依頼と大忙し。二人の男を軸に物語は絡み、繋がり、やがて驚きへと至る。

引用:『首折り男のための協奏曲』文庫版カバーより(新潮文庫)

2人の登場人物「首折り男」と「黒澤」が各ストーリーの軸。そして裏テーマとも言える「時空のねじれ」が、そう来たか……という結末へと導いてくれる隠し味の存在です。

前半には少し過激なシーンもありますが、穏やかな空気のなかで物語自体は進みます。

伊坂さんによる“音を描く力”はやはり健在で、物語の絡ませ方も“知恵の輪”のように、グニャグニャ・スルッとしています(複雑なようでいて簡潔なのです!)。

 

ゆるやかに繋がる7つの短編

伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』

首折り男のための協奏曲』は、7つの物語からなる短編集。複数の雑誌にまたがって発表されてきた7作品を、加筆・修正して閉じ込めた小説です。 

この作品のおもしろみは「話がゆるやかに繋がっている」ところ。

例えば、1話目の「首折り男の周辺」に出る老夫婦のとある会話を抜き取ってより詳しく描いたのが、3話目「僕の船」だったり。同じく1話目に出る首折り男が、7話目「合コンの話」の不穏な空気の正体だったり。

短編小説の独立性と長編小説の一貫性を、ボウルに入れて混ぜたような不思議な1冊です。

 

秀逸な構成のトリック

伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』

首折り男のための協奏曲』5話目にあたる「月曜日から逃げろ」では、その構成のトリックが目玉です。

作品のネタバレになるので書けませんが、秀逸な構成術につい「え、すごい……。」と布団のなかで、ひとりごちてしまいました。

この1話を読み終えてトリックに気づいたとき、すぐに読み返したくなる。タネ明かしされたマジックをスロー再生してふり返りたくなる感覚です。

 

構成のトリッキーさで言えば、イギリスのミステリー作家アガサ・クリスティの『アクロイド殺し』も素晴らしいのです。まさに「そう来たか。」とつぶやいてしまい、読後の満足感からしばらく抜け出せなかった思い出があります。

 

まとめ:神も仏もティータイム

伊坂幸太郎さん著『首折り男のための協奏曲』の感想を書きました。

7つの短編のゆるやかな繋がりは、短編小説と長編小説のいいところ取りのようで、読者を独特な雰囲気で楽しませてくれます

登場人物のエッジの効いたリズミカルな会話はおもしろく、ストーリー展開の広げ方と畳み方がうまくて、時間を忘れて読みこみました。

そして読み終えたとき、少し気分が軽くなるのも1つのトリックでしょうか。

何事もうまくいかず気分が落ち込んでいるとき、運に見放されて「神も仏もいやしない。」と嘆きたくなるとき。きっと神も仏も『首折り男のための協奏曲』を読み、その興味深さに目を離せないでいるのでしょう。

神も仏もティータイム。

そう考えると、ちょっと前向きに、いや、上でも見ながらまた歩き出そうと思えます。